OUR HIDDEN SPACE

心に刺さった愛する者(物)を全力で語る、私(たち)の隠された場所。

【ITSAY】”愛”よりも昔、”孤悲”のものがたり②

海の中で、

 

人知れず思いを通い合わせた二人。

 

 

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しかし、海の中以外の場所で、

 

自分の思いを真っ直ぐに表現できるほど、テーは器用でもなく、大人でもありませんでした。

 

オーエウに対する気持ちが何なのかわからない。

 

彼を大切に思う。彼を愛したい。でも愛し方がわからない。

 

そもそも愛していいのかわからない。

 

ターンに抱いてきた思いと、オーエウに抱く思いとの違いに、

 

ただただ戸惑うことしかできません。

 

 

ターンの下着にドキッとしていた自分は消え失せ、

 

 

ターンが女性としての覚悟を見せつけるような服装をしていても、

 

 

それに全く気づくことができない。

 

 

ターンに対しては抑えられた性的衝動を、なぜかオーエウには抑えることができない。

 

 

オーエウの赤い下着姿を見て、激しく欲情し、その衝動を行動に移してしまったあと、

 

 

テーは自分のベッドの中で大声をあげて泣き出します。

 

 

隣には自分が模範とすべき兄が寝ていて、

 

 

自分の視線の先には憧れの「勇健」が飾られていて、

 

 

自分の体を覆う毛布は、オーエウを象徴する赤。

 

 

そのような中で、オーエウに欲情し、その衝動を抑えられない自分への罪の意識を深めてしまい、ただただ泣き出してしまうのです。

 

 

一方のオーエウは、テーから自分が望む「答え」を与えてもらうことができず、

 

 

ただただ塞ぎ込むことしかできない。それだけではなく、受験からも夢からも逃げようとする。

 

 

家のリゾートで働くという、安全で、自分が傷つくことのない選択をしようとします。

 

 

そんなオーエウに、「大丈夫だ。頑張るんだ。」、「俺が力になるよ。」とバスは声をかけますが、オーエウは曖昧な表情だけを残してその場を去ります。

 

 

こうして二人は、海でのキスの後、互いの「幼さ」故に、異なる形で身動きが取れなくなります。

 

 

そして、

 

 

その中でテーが下した苦しく切ない決断が二人のすれ違いの決定打となります。

 

 

 

テーは、1話でオーエウが推薦入試に不合格となったときに、

 

「勉強ができるなら一般入試を受けろよ!」となじられたことを鮮明に覚えていたのでしょう。他ならぬ、オーエウに言われた言葉だったから。

 

 

その記憶も相俟って、テーはオーエウのために、自分の気持ちが何なのかわからないまま、

 

「推薦入学辞退」という選択をします。

 

 

オーエウの気持ちも、ターンの気持ちも、友人達の気持ちも、家族の気持ちも全て置き去りにして。

 

 

テーが自分のために推薦入学を辞退したと知ったオーエウは、「余計なお節介」、「いらない」、とテーの手作りのテキストをわざわざ引用して、怒りに満ちた感情を露にします。

 

 

自分が欲しかったのは、それではないと。

 

 

自分がテーから与えて欲しかったのは、大学入試合格ではなく、テーからの愛の言葉なのだと。

 

 

直接言葉にできないからこそ、感情的な表現に終始します。

 

 

テーがオーエウを思って与えたものと、

 

オーエウがテーから与えて欲しいものが、

 

異なるものであったこと。

 

 

それは、二人がお互いを思う気持ちを持ちながらも、

 

最終的に自分の物差しでしか物事を図ることができず、

 

お互いの気持ちにまで目を向けることができない人としての「青さ」故。

 

その象徴がここで起きてしまった大きな「すれ違い」だと感じます。

 

そして。

 

物語はこの後、

 

二人の「幼さ」、「青さ」、「一人よがり」、「自分勝手」という様相を一気に鮮明にしていきます。

 

 

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テーは、自分の元にやってきたターンを晴々とした表情で迎えるものの、

 

その心は完全にオーエウに移行していて、

 

あからさまにターンとの身体的距離を取ろうとします。

 

そして、「(ターンへの)自分の気持ちは本当だった」という言い訳を繰り返します。

 

「ごめん」と口にするものの、その口調はどこか軽やかで。

 

 

「怖いんだ」、「お前に嫌われたと思った」、「お前を失いたくないんだ」というこれ以上ない思わせぶりな言葉を吐いた後に、

 

 

平然と「以前のようには想ってなくても、お前と友達でいたい」と言ってのけるのです。

 

その言葉を聞いたターンの表情が一瞬で曇ったことにも気づかず、ただただ自分の思いを吐露していきます。

 

 

ターンが懸命に絞り出した「愛しあってないなら、友達でもいいじゃない」という言葉にも、彼女を思いやる素振りを一切見せず、すぐさま頷いてしまう。

 

泣き出してしまった彼女に、「何で泣くんだよ」と明るく聞けるほどに無神経なテーの姿は、

 

 

物語の中でこれ以上ないくらいに、身勝手で、滑稽です。

 

 

ターンが描いたテーが演じる勇健の胸には、紫のハイビスカス(ターンの下着に描かれていたもの)が描かれていました。

 

 

これは、ターンがテーとのこれからをしっかり思い描き、おそらく自分の「初めて」をテーに捧げること、

 

そしてそれは二人の大切な思い出になること、

 

その象徴として描いたのが紫のハイビスカスであったはず。

 

にもかかわらず、テーはその絵の意味に全く気づかないし、

 

目の前の自分の感情を読み取ることすらできない。

 

そんなテーの様子をすぐさま察知したターンはただただ自分の本音を隠し、泣きながら微笑む。

 

決して、テーをなじったり、引き留めたりしない。

 

テーを思うが故に身を引く、優しく聡明な女の子として描かれています。

 

だからこそ、

 

目の前のターンが深く傷つきながらも、

 

懸命に言葉を紡いでいる姿に全く気づかないテーの「愚かさ」が鮮明になります。

 

 

 

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バスは、テーとの対比を多く描かれているように感じます。

 

バスは、オーエウが望む愛し方をきちんと表現できる子です。

 

一般入試前に、中国語の塾に皆で集まった時も、

 

友人たちや先生の前で堂々とオーエウに「お前はできる」と励まし、

 

「お前が好きだ」と、「この感情を恥ずかしいとは思わない」ときっぱり言ってのけます。

 

 

また、テーとオーエウの運命を大きく左右する一般入試の後の帰り道、

 

 

バスは笑顔で、これ以上ないくらい自然にオーエウの手を握り、その手を引いて歩こうとします。

 

 

人目を気にして手を離し、「恥ずかしくないの?」と問いかけるオーエウに、

 

 

その質問の意図が理解できないとばかりに、笑顔で「なんで?」と問い返すバス。

 

 

以前、手が触れ合ったにもかかわらず、テーはその手を決して握ってはくれなかった。

 

 

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バスに「なんで?」と問い返された後のオーエウの表情が、嬉しさと悲しさの混じった何とも言えない複雑な表情をしていること、バスに引かれた手を見つめながらも足取りがやや重いところなど、PP君の繊細な演技が光ります。

 

 

そして、オーエウの愛されたい願望をそのまま具現化したかのようなバスもまた、

 

 

ターンと同じく、オーエウを思って身を引く聡明な人物として描かれます。

 

 

一般入試の発表日、オーエウは見事に合格した一方で、テーは第一志望の大学に不合格になってしまいます。

 

 

「無理だ」と言われた第一志望校に合格したはずなのに、浮かない顔のオーエウ。

 

 

バスはオーエウの心が自分にないことをしっかりわかっていました。

 

 

オーエウのことを思うからこそ、バスは車で彼をテーの家に連れていきます。

 

 

そして「さあ、降りて(テーに)会いにいけ」と優しく背中を押します。

 

 

一度はテーの家に近づくものの、オーエウはテーに会いにいく勇気はありませんでした。

 

 

それどころか、目の前のバスに抱きつき、「傷ついてるあいつを見たくない」と泣き出します。

 

 

「バス、ごめん・・・」と言いながら、彼の優しさに甘えるオーエウ。

 

 

バスはオーエウの気持ちがテーにあることを知りながら、彼の勉強に付き合っていた。彼の幸せを願うからこそ。そして受験の結果が出た今、オーエウの背中を押しました。相手の気持ちを考えて行動するバスの姿は、

 

一般入試の直前に、久々に会ったテーに、聞かれたからとはいえ、

はっきりと「(バスと)付き合ってみてる」と言えてしまうオーエウとは大きく異なります。その言葉を聞いてテーが傷つくことはわかっているだろうし、実際にテーは激しく動揺してしまい、試験に集中できないのですから。

 

 

テーの家の前で、バスの優しさに甘え、彼に謝るより先に「傷ついているあいつを見たくない」と泣きじゃくるオーエウの姿は、

 

 

一般入試直前のテーに対する振る舞いと相俟って、非常に幼く滑稽に見えます。

 

 

言葉を選ばずに言うのであれば、このシーンではバスの優しさを利用した人物として映ります。

 

 

 

私は最初に、ITSAYは「愛でもなく、恋でもなく、「孤悲」を描いた物語だ」と述べました。

 

 

そして、それがこの物語の「核」なのだと。

 

 

物語ラストの5話で、ターンとバスが、

 

相手を思い、自分の気持ちよりも相手の気持ちを優先する、

 

 

心優しく聡明な人物として描かれているのは、

 

 

決して尺が足りなかった、テーとオーエウがメインの話だから、などの物理的な理由ではなく、

 

 

テーとオーエウの「滑稽さ」、「愚かさ」を鮮明にするためであった、と私は考えます。

 

 

そうすることで、テーとオーの「愛よりも恋よりも昔、「孤悲(こい)」の物語」を描き切ったのではないかと。

 

 

そして、彼らの「孤悲」を描くためには、ターンとバスを、

 

「孤悲」よりも先の「恋」をしている人物造形で表現する必要があったのではないかと。

 

 

また、ITSAYはサイドストーリーであるLTIPに続くように、

 

 

テーとオーエウの「孤悲」が「恋」に昇華される瞬間をしっかりと描いています。

 

 

テーの昇華が描かれたのは、

 

固く閉ざしていた自分の迷い、焦り、困惑を言葉にしてフン兄さんに伝えたシーン。

 

 

それまでのテーは、賢さやプライド、母への愛情を渇望する思いから、

 

オーエウへの感情を必死に自分の中に押し込めてきました。

 

苦しくて、悲しくて、どうしようもない時は、ただ泣くことしかできなかった。

 

その思いを言葉にすることができなかった。

 

 

フン兄さんを前に、堰を切ったように、「泣く」行為の先を、自分の本音を、しっかりと言葉にしていきます。

 

弟の気持ちに気付きながらも、テーがその口を開くまで待っていたフン兄さんは、

 

優しく、そして強く、

 

 

「もしお前が愛していない人と一緒になって

 お前が幸せじゃなかったら、母さんも幸せじゃない

 お前の人生だ

 お前が幸せな道を選べばいい

 誰を好きになっても変じゃない」

 

とテーに語りかけます。

 

賢く、プライドが高い自己完結型の人間として描かれてきたテーが、

 

まるで幼な子になったかのように、ゆっくりと、

 

「兄ちゃん 本当?誰を好きになってもいいの?」

 

と問いかけます。

 

フン兄さんは「ずっと前からそうだ」と告げ、テーを優しく抱きしめます。

 

自分の思いをフン兄さんに吐露し、答えをもらったことで、

 

テーは自分で自分を縛り付けていたものを、しっかりとほどくことができました。

 

 

この場面は、いわばテーの通過儀礼として描かれています。

 

 

次にオーエウの昇華が描かれたシーン。

 

それは、5話のラストシーン。

 

テーと共に夕日を眺める場面。

 

「無理だ」と言われた受験を自力で突破したオーエウは、

 

テーとの約束を果たそうとします。

 

久々に再会したテーは、たくさんのココナッツをバイクに積み、

 

オーエウと並走します。

 

二人の距離感はいつかの、友人であった時のように穏やかです。

 

 

岬にたどり着いた二人は涙を流しながら、美しいプーケットの夕日を眺めます。

 

二人は互いにきちんと向き合い、

 

テーが入学を辞退したこと、

 

テーが合格した大学に進学すること、

 

これからはテーから連絡すること、

 

オーエウがバスと友達に戻ったこと、

 

テーとターンも友達に戻ったことを素直に話していきます。

 

そして、ここでもまた、

 

オーエウはテーに、

 

「なら、俺とお前は?」と問いかけます。

 

ですが、その後に、何かを覚悟したような顔で、

 

「もう今は何も気にしない

もし友達に戻るなら戻れるし

もしライバルなら なれるから

お前が俺のことを好きでも嫌いでも

受け入れる

お前の好きなように

形なんてどうでもいい

だけど1つだけ・・・

俺の前から消えないで

 

とテーに告げます。

 

自分に自信がなく、相手を試すような問いかけを繰り返していたオーエウ。

 

核心を突く言葉は相手から言って欲しい、

 

その言葉をくれないなら、その思いはいらないと突っぱねた。

 

海でのキスの後、

 

「お願いだから・・・」のその先を言葉にできなかった。

 

テーが自分に歩み寄るのを待つことができなかった。

 

そんなオーエウが、初めて口にした”願い”、

 

それは、

 

たとえテーが自分を愛していなくても、

 

ただただ自分の目の前にいてほしい、という切なるものでした。

 

テーを思いやりながらも、自分の願いを言葉にすることができたこの瞬間が、

 

オーエウがテーに対する「孤悲」を「恋」に昇華した瞬間なのだと思います。

 

テーがオーエウを象徴する赤に近いエンジ色のズボンを履き、シャツには赤い刺繍が施されていること、

 

オーエウがテーを象徴する青に近い緑がかった青色のズボン、同じ色のネクタイをしていることからも、

 

二人が自分の思いだけでなく、相手の思いに共鳴し、成長した様子が表現されている

ように感じます。

 

そして物語ラスト。

 

 

オーエウの願いに対するテーの答えが、

 

「何にでもなっていいなら、

お前の恋人になっても?」であることも、

 

まだまだ愛の言葉を語るには、少し早い、

 

二人の様子をしっかりと表現しているように感じます。

 

「好き」、「愛している」という言葉ではなく、

 

オーエウの願いに真正面から答えた、

 

「もう二度と消えたりしない」というテーの言葉が

 

物語の一番最後に紡がれたことで、

 

IITSAYの世界観を完璧に締め括ったと思います。

 

 

 

私はこの後のLTIPまでしか視聴しておらず、IPYTMは視聴していません。

 

ただ、今のところ、

 

ITSAYは「孤悲」

 

LTIPは「恋」

 

IPTYMは「愛」

 

を描いた物語になるのではないか・・・と思っています。

 

この考察は12月のWOWOWの放送を見届けてから、また書きたいと思います。

 

驚いたことに、①と②合わせて、1万文字以上書いていました・・・。

 

長いばかりで上手くまとめられず申し訳ありません。

 

ただ、ITSAYに対する情熱は全て、文章に込めたつもりです。

 

少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

 

ここまでお付き合いくださった皆様、本当にありがとうございました。

 

P.S.

こちらでのコメントは、なぜか私からのお返事が反映されません。もしコメントをくださる方がいらっしゃいましたら、ツイッターの方に残していただけると大変助かります。よろしくお願いいたします。

 

何卒

 

JUNA