【ITSAY】絶対王者2getherをも凌いだ、映像史に残る海中キスシーンの素晴らしさ
LINE TV AWARD2021において、BEST KISS SCENEを受賞したITSAYの海中でのキスシーン。
私は賞レース中、ITSAYを未視聴であり(そもそも存在を知らず)、2gether沼に正にドボンしていた時でした。
そのため、受賞結果を知った時、「え!!あのサラタイ以上のキスシーンがこの世のどこにあるのさ!!??」と大きな衝撃を受けたことを今でもよく覚えています。
ですが、ITSAYを見終えた今、あの海の中でのキスシーンが多くの人を魅了したこと、
そして、
世界中を熱狂の渦に巻き込んだ、タイBLの王者とも言える2getherを凌いで賞を取ったことにとても納得しました。
どちらが秀でていたかではなく、それぞれのキスシーンの背景と意味合いが大きく影響したのでは?と考えました。
今回は、ITSAYの海の中でのキスシーンの素晴らしさについて、またその背景について私なりに考察していきたいと思います。
今思えば、海またはプールの中でのキスシーンは、これまでも何度となく、いわゆるBLカテゴリーの映像作品で多用されてきた絵です。
登場人物が水泳部という設定が何だか多い気がするのも、
「男性二人」、「水の色と肌の色」という絵が美しく、画面に映えるから採用されやすいのでは、と推測します。
では、ある意味見慣れているはずの海中のキスシーンが、何故、
ITSAYを象徴し、多くの人の心を揺さぶり、絶賛されているのでしょう。
その理由を私なりに紐解いていきます。
※ネタバレを含みます。未視聴の方はご注意願います。
まず、このキスシーンを語るには、一つ前の3話に言及しなくてはいけません。
3話で、テーはオーエウに対して友情ではない特別な感情を持っていることに気づきます。
しかし、その思いがどのようなものなのか、頭では理解できておらず、
ただただ、心と身体が先導してしまい、オーエウとの心と身体的な距離が明らかに縮まっていきます。
それが一気に溢れ出してしまったのが3話のラストシーン。
テーは何かを確かめるように、たどたどしくも、オーエウの身体に触れ、
その手の力は次第に強さを増し、オーエウを抱き寄せます。
テーは目の前のオーエウに欲情し、その衝動を抑えきれなくなります。
ここで私がハッとしたのは、
テーの欲情のトリガーが「胸」であることが2話で示されたていたこと。
2話では、バイクで街を走りながら、まだ女性の胸に触れたことがない、という会話をテーとオーエウがしています。そして、その後にターンの白いYシャツから覗く下着に、明らかに戸惑うテーの描写がありました。
後ろからオーエウを抱きとめたテーは衝動に身を任せ、オーエウの胸元に手を伸ばし、おそらく自分が誰かと身体的に初めて繋がる時にはこうするのだろう、と思っていたことをオーエウにしていきます。
荒くなる呼吸。オーエウの胸に触れ、その衝動は強く強くテーを突き動かします。けれども、自分が思い描いていた膨らみのある胸とは異なるオーエウの平たい胸に、テーは一気に現実に戻されてしまう。
いきなり熱を持った身体を放り出されたオーエウは、不安が募り、テーの思いを確かめるかのように彼にキスをしようとします。
しかし、テーはそれに応じることができなかった。それだけでなく、戸惑いを隠しきれず、さっきまであれほど触れていたオーエウを残して、階下の部屋に行ってしまいます。
自分から仕掛けはするけれど、核心をつく言葉は相手から言ってほしい、行動でもしっかり示してほしいオーエウが自らキスを求めた。これはオーエウにとってはとても勇気のいる行為で、冷静な状態ならおそらくしないこと。あまりに不安で身体が動いてしまったのだと思います。
だからこそ、このキスを拒んでしまったテーの行動がもつ意味は重く、オーエウを深く傷つけてしまった。
そして、4話。
苦しくて、歪な距離感を懸命に保つ二人。結局、その距離感に先に耐えられなくなったのはオーエウでした。
オーエウが自分の側から離れるのは嫌、けれどもその気持ちをどう表現していいのかわからないテーは、寝る間も惜しんでオーエウのために中国語のテキストを作ります。
そしてそれを手にオーエウに会いにいきます。
最初はぎこちない距離のままの二人。特にオーエウは、テーにキスを拒まれたことから大きな不安を抱えていて、自宅に会いに来たテーに近づかれる度に、一旦は受け入れつつも、身体的な距離を取ろうとします。
けれど、オーエウの視線は不安が根底にありながら、どこか扇状的。
二人は、オーエウの家の階段の下で、その身を隠しながら抱き合います。
決して「愛の言葉」を交わさずに。
そして、オーエウはテーを海に誘います。
子供のころと同じように、海面に身を任せる二人。
ここでも先に、海に身を沈める(先に仕掛ける)のはオーエウなんですよね。
オーエウの後を追うようにすぐさま海に潜るテー。
海の中で手を取り合い、お互いを見つめる二人。
ここでもまるで「大丈夫だよ」と言わんばかりに微笑む(先に仕掛ける)のはオーエウなんですよね。
その表情を見た後、テーの視線がオーエウの唇に落ちていき、
二人は引き寄せられるように、初めて唇を重ねます。
ここで流れる音楽がまた素晴らしくて。
今までは、主題歌の「Skyline」、いわゆる歌詞がある歌が大きな役割を果たしてきましたが、
二人がお互いの気持ちをやっと表現することができたこのシーンでは、あえて歌詞のない曲が使われていて、より物語の中に引き込まれます。
二人が唇を重ねた直後に、画面が切り替わり、美しいプーケットの海が大写しになります。
私、初見の時は、「え、このタイミングで海に切り替わるの?」と少し驚いたのですが、
改めて見てみると、一見静止画のように見えるこのシーン、画面左上で波が静かに、でも強く、ゆっくりと砂浜に押し寄せているんですね。
これ、二人の気持ちが徐々に海の中で溢れていく、互いに互いを思う気持ちが「押し寄せていく」、その流れに抗えない様を表しているように思えて。
そう解釈してからは、この海のショットがとても大切だと感じています。
再び二人の画面に切り替わると、先に身体を引き寄せている(先に仕掛けている)のはオーエウ。
でも。
テーの手が徐々にオーエウの胸元に伸びていきます。
あの日、テーはオーエウに欲情しながらも、胸を触ってしまったことで、
急に不安が頭を過ぎり、オーエウの元から去ってしまった。
そして、「胸」はテーの欲望のトリガー(ちなみにこのシーンでは、その役割ではなく、象徴として使われている)。
平たいオーエウの胸を、自分の気持ちを確かめるかのようにもう一度触れていきます。
自分は、オーエウの身体を愛せるのか、と。
それに気づいたオーエウは、あの日のことを思い出し不安になったのでしょう。
目を開け、一度唇を離し、テーの表情を確認します。
テーの手が前のように迷うことなく、そして離れることなく自分の胸に置かれ続け、
尚且つ目の前で目を閉じたまま、キスの余韻に浸っているかのように見えるテーの表情を確認し、もう一度唇を重ねます。
キスをしている間、テーは最後までオーエウの胸に触れたままなんですよね。
これは3話での描写があったからこそ、ものすごく重要な意味があって。
テーは、オーエウの心だけでなく、身体も愛せることに気づいた。
オーエウは、テーに自分の身体を愛してもらえることを知った。
だからこそ、
キスの前のオーエウの笑みは、テーに対する「大丈夫だよ」という表現に感じるのですが、
キスの後のオーエウの笑みは、「テーに自分の身体を愛してもらえることを知ることができた」という喜びの笑みのように感じます。
そして。
オーエウの笑みにつられるようなテーの微笑みは、「オーエウの身体を愛せることに気づけた」ことへの安堵感からくるものなのかなと。
海の中は、テーを象徴する「青色」。
キスシーンの途中で映し出されるハンモックにかかった二人の洋服も、
いつもは赤色のものを身につけてばかりいるオーエウが「青色」の服を着ていた。
人目を気にして、中々自分に真っ直ぐ向かってきてくれない、確信のある言葉をくれないテーのために、オーエウが作り出した「青い世界」。
テーはそこに身を沈めることで、初めて、自分の感情を素直に表現することができた。
オーエウが作り出した「青い世界」でなければ、そうすることができなかった。
これだけの意味を、このシーンにしっかり持たせたことが、
ITSAYのキスシーンの最も素晴らしいところであり、他の作品の水中キスシーンと一線を画すところだと思います。
このシーンでかかる曲のタイトルが「OUR HIDDEN SPACE」というのも素晴らしくて。
「僕たちの隠された場所」、なんて切ない響きなのだろうと。
初恋が実った場所なのに。二人が初めて思いを通じ合わせた場所なのに。
それは「隠された場所」でなくてはいけなかった。
そう考えていくと、賞レースで一騎打ちを演じた2getherのキスシーンを凌いで、
ITSAYのキスシーンが受賞したことも納得してしまいました。
もちろん私もStill最終話のキスシーン大好きなんですよ。
あんなに幸せなキスシーンはないよなって心から思っています。
けれど、2getherのキスシーンは、それまでの物語の中でももちろん描かれていて、
尚且つ二人はもう正真正銘、自他共に認める愛し合うカップルなんですよね。
だからこそ、見ている誰もがハッピーになれるようなシーンだったと思います。
それとは正反対のベクトルで描いたのがITSAYで、彼らのキスまでの距離があまりにも苦しく、切なく、遠かったこと、
そして、結局は幻想の世界(オーエウが作り出した世界)でしか彼らは自分の思いを表現できず、
そんな二人の「初めてのキス」であること。
この世界観の差が、受賞の決めてだったのかなと。
単に世界観、背景の違いですよね。
ハッピーな絵が好きな人は2getherを選ぶだろうし、
私みたいに心を揺さぶられたり、心が震える絵を好む人はITSAYを選ぶだろうし。
どちらも素晴らしいシーンであることに変わりはないですが、
「芸術性」ということに焦点を当てるならば、
ITSAYがあまりにもその世界観や表現方法、描き方が完璧過ぎたのだと思います。
というわけで長々と語ってしまいましたが、
私はITSAYの海の中でのキスシーンは、
映像史に名を刻んだと思っています。
圧倒的な映像美で綴る、
自分の気持ちを素直に表現できなかった二人の、
青くて、痛くて、美しくもどこか切ないキスシーン。
このシーンのように、観る者の感性を物凄い力で揺さぶってくる作品はそうありません。
少なくとも、私の中では「永遠の1位」であり続けるでしょう。
ここまでお付き合いいただいた皆様、貴重なお時間をありがとうございました。
何卒。
JUNA